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記録

#14

昔、多分高校生くらいの頃、一人で祖母の家に行くことがあった。

 

夏休みだったと思う。

 

新幹線を利用して行く必要がある、自分の家からは遠く離れた田舎に祖母は住んでいた。

 

好きな人と出掛けるわけでも、都会へ買い物しに行くわけでもないので、ほぼ部屋着みたいな格好とサンダルで新幹線に乗り込んだ。

 

祖母の家へ遊びに行く、用件はただそれだけ。

 

とはいえ、一人でそんなに遠出をするのは、当時高校生だった自分にとって、生まれて初めての経験だった。

 

新幹線が徐々に田舎の方へ降っていき、窓の景色が変わっていくにつれ、すごく遠い場所へ来ている感覚になり、少し変な気分だった。

 

新幹線を降りてからは、通常の電車に乗り換え、聞いたこともない名前の駅ばかりが連なる在来線を乗り継いでいった。

 

新幹線の中は、周りもまだ自分と同じ。

 

でも在来線になると、一気にアウェイ感が増す。

 

ただでさえ田舎な地域。

 

乗客は、ほとんど全員その辺りに住んでる地元の人に違いない。

 

自分だけが、大きな荷物を持って慣れない表情をしている、余所者になった気分だった。

 

ちゃんと着けるんかな。

 

そんな思いが少し頭をよぎった。

 

電車の中で座りながら、ふと足元を見ると、いつも履いてるサンダルが目に入った。

 

いっつもコンビニ行く時に履いてるサンダルやのになぁ。

 

こんな遠くの全然知らん場所に一人でおんのに、履いてるのはいつものサンダルやねんなぁ。

 

このサンダルだけでこんな遠くまで来ることあんねんなぁ。

 

そんなことを頭の中で考えながら過ごしていると、いつの間にか不安な気持ちはなくなっていた。

 

こんな適当なサンダルでも、自分はどこにでも行ける。

 

何となく自信になった、そんな思い出の話。