#9
普段生活してて、99%の間は忘れてるけど、残りの1%でたまーに思い出すような人が何人かいる。
大学生の頃、フットサルサークルに所属してた。
小学生の頃からサッカーをしていてサッカーはずっと好きだったし、大学生になってサークルに入らないなどという選択肢は1ミリも頭になかったので、フットサルサークルを選ぶことは自分にとって違和感のない自然な流れだった。
学部で適当に仲良くなった友達と、適当に決めたとあるフットサルサークルに、すんなりと入部することになった。
ガチ過ぎず緩すぎず、男女の比率も程よく、所属してる他のメンバーにも不満は特になく、悪くないサークルだなと思っていた。
しかし、自分にとって一つ苦手なことがあった。
飲み会の雰囲気。
それはそれはもう、合宿や練習終わりの度に、所謂「THE・大学生の飲み会」が催されるサークルだった。
自分はそれに馴染めなかった。
当たり前のように飛び交うコール。
みんないつの間にどこでそんなん覚えたん?て思ってた。
初め、一緒にサークルに入った同じ学部の島根出身のあの田舎野郎も、嬉々としてコールを叫んでた。
コールとかそういうことをする人が嫌いな訳では決してなかった。
一緒にできた方が楽しいに決まってるのは当然自分でも分かってた。
でも自分はできなかった。
頑張って付いて行って無理やりしてた時も、俺これ今何してるんやろって気持ちがどうしてもよぎって、恥ずかしさみたいなのから抜け出せなかった。
そんな一年生の頃の夏に、自分は夏合宿というものに参加した。
先輩や同学年のメンバーと交流を深め、思い出を作る絶好の機会だ。
参加しない手はなかった。
しかしそこでもやはり、飲み会の壁が立ちはだかった。
相変わらず飲み会の時間がキツかった。
誰かと喋ったり酒を飲んだりすることは全く嫌いじゃないのに、何かあればすぐにこだまするあのコールだけがどうしても苦手だった。
帰りてえ。。
何でこいつらこんな全力で叫べるん。。
店側も何でこれでOK出すん。。
そんなことばかり考えて、とにかく時間が経つのが永遠に感じられた。
そんな時だった。
とある人が、急に喋りかけてきた。
「おう、しんどいか?大丈夫?」
一学年上の二年の男の先輩だった。
その人はバリバリのウェイ系の大学生だった。
そういう飲み会とかで一番目立つタイプの、背が小さくて、ど金髪のホストみたいな髪型で、でも九州出身で顔はめちゃくちゃ童顔で田舎の中学生みたいな顔をしていた。
みんなに慕われてて、イジられてて、モテるタイプではないけど人気のある人だった。
そんな人が、どうも飲み会の雰囲気に馴染めずタジタジしてる自分を見かねてかどうかは分からないが、話しかけてきた。
そこで自分にとって胸に響く、優しい言葉を掛けてくれた…とかいうことは全くない。
というか、何の話をしたのかもほとんど覚えてないし、多分1分くらいしか喋ってない。
でも話しかけてくれたのは覚えてる。
そして、あーなんか気遣わせてしまってるかな、ほんまこの飲み会居づらいなぁ…と思ったことも覚えてる。
その後の飲み会を何とかやり過ごし、夏合宿からも帰ってきた自分は、次第にサークルへ足を運ぶ頻度が少なくなっていった。
単純に面倒くさくなっていったのもあるし、これからもああいう雰囲気に馴染める気がしなかったのもあるし、とにかくあまり行きたいと思えなかったので、たまーに行くだけでどんどん行かなくなっていった。
時は流れ、3年の秋頃。
サークルに行くことなど全くなくなり、授業も少なくなって大学に行くこと自体減ってきてた。
その頃の大学生活といえば、ほとんど一人で通学しては一人で講義を受け、一人で帰宅するといったようなものだった。
ただただ4年で卒業するためだけの義務感で通ってて、大学に対する楽しみはほとんど見出せていなかった。
今思うとめちゃくちゃ勿体無いと思うけど、当時はそうだった。
その日も一人で講義を受け切り、すぐさま帰宅しようとしたが、たまたまその日は無性にラーメンが食べたかった。
というわけで、帰りの途中に繁華街のある駅で降り、お気に入りのラーメン店へ向かい、夢中で一人ラーメンを食べ、店を出て、他に寄り道など一切せず、すぐに改めて帰ろうとした。
すると、早く食べ過ぎてしまったせいか、歩き出すと暑くて汗がダラダラ流れてきた。
元々汗かきなので、これはしばらく止まらないなと分かり、道の途中にあるベンチに腰をかけて休憩することにした。
汗が止まるまで適当にスマホなんかを見ながらぼーっとしてた。
そんなことをしながら、数分経った頃。
何か感じる。
視線か、足音か、誰かが近くにいる感覚。
初めは分からなかったが、少しして、前から誰かが自分の顔を覗き込もうとしてることに気がついた。
パッと顔を上げて見てみると、すぐに誰だったか分かった。
前述のあの先輩だった。
ご友人と二人でたまたま通りがかったようだった。
驚いてすぐに挨拶をした。
「うわ、お疲れ様です。めっちゃ久々ですね。」
「おうお疲れ。ほんまに久しぶりやな。」
「びっくりしました。よく気付きましたね。」
「何してんの?こんなとこで。」
「あ、あっこのラーメンです。」
「ああ、食べに行くんや。」
「いや、もう食べて出てきたんですけど、暑くて汗出てきたんで休憩してました。」
「なんやそれ。大丈夫かよ。」
ど金髪でホストのようだったあの髪型は、黒髪の何の遊びもない髪型に変わっていた。
「就活ですか?」
「そやねん。もう俺だけ。でもやっともう終わる。」
「ですよね。皆さんもう決まったんですか?」
「そうやな。みんな大体。あと〇〇が最終くらいかな。」
「そうなんですね…。」
と、こんな感じの会話をしたのは覚えてるけど、最後どんな風に切り上げて別れたのかはあんまり覚えてない。
ただその時の自分は、あの飲み会の時くらいしかほぼ喋ったことない自分をよく覚えてて、かつよく話しかけてくれたなーという印象が大きかった。
あの時話しかけてくれた時も思ったけど、やっぱりええ人なんやろなぁと感じた。
向こうからしたら、特に何の意味も考えてないやろけど。
結局それから一度も会うことなく、連絡を取ることもなく、おそらくそのまま普通に卒業していって、自分も1年して卒業した。
特段深い関わりがあった訳でもなく、何か恩がある訳でもなく、ただ、何となくたまに思い出す。
今頃元気にされてるんやろうか。